KFOS限定トークイベント 石井岳龍×神戸フィルムオフィス「神戸で撮るということ」を開催しました

日時: 2023年03月22日(水) 14:50

去る3月11日、神戸フィルムオフィスサポーター(KFOS)限定トークイベント、石井岳龍×神戸フィルムオフィス「神戸で撮るということ」を開催いたしました。

神戸芸術工科大学の映画コースで17年間教鞭を執られた石井監督をお招きし、神戸で撮ることをテーマに、1時間ほどおはなしを伺いました。

神戸フィルムオフィスサポーターの方限定でご参加いただけるイベントでしたが、アーカイブを公開いたしますので、ぜひご覧いただければと思います。

トーク前半は、石井監督の神戸に来られたきっかけや、神戸で好きなところ、また、神戸で撮られたミュージックビデオの撮影秘話などをお伺いしました。その様子は、YouTubeにて公開しておりますので、是非以下のURLよりご覧ください。
https://youtu.be/O55tyPe3d9M

また、後半部分は、テキストにて以下よりご紹介いたします。

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松下麻理(以下、松下):さて、ロケの話が出たところで皆さん(イベントに参加されている神戸フィルムオフィスサポーターの方々)からの質問に戻りたいと思うんですけれども、ロケハンという作業の工程を教えてください。

石井岳龍監督(以下、石井):ロケハンは私にとって最も重要なプロセスのひとつです。監督さんによっていろいろ違うと思うんですけれども。ロケハンはもちろん、どこで撮影するかを探すことです。映画では、だいたい制作部さんが担って、フィルムコミッションに協力していただいて、共同でまわるというものだと思います。神戸フィルムオフィスのように、非常に積極的にやっていただけるところは、前もって色々脚本も読んでいただいて準備もしていただいている。あるいは、わたしとか、私と一緒にやっている優秀な制作部さんたちは、だいたい脚本のイメージをつかんでいて、私に見せる前に、撮影ができるかどうか、候補地周辺に協力体制があるかどうか、パフォーマンスの面とか色々なことを考えて、おそらく厳選して私のところへ持って来ます。東京近郊であれば、自分で探すことも多いんですけれども、ぼくらメジャーじゃなく、お金をかけてじゃなく、でも非常に豊かな映像環境で撮りたいというときには、どこで、どういう良いところがあるか、こちらでイメージにあったところがどうやったら探せるか、かなり力を入れて(探します)。自分だけでも4回以上は見にいくことが必要です。
まず、制作部さんが見つけてきて、見にいく。その中から選んでメインスタッフを連れて行く、で、最終的には私一人で行って、どういう風に組み立てるか、ということを考えます。

松下:最後はおひとりで行ってらっしゃるんですか。

石井:ひとりで行くことが多いです。もちろん、行けないところもありますけれども。基本的にはその場所に行って、どこでどういう風に俳優さんを配置してカメラをどこに置いて、という計算をしないと。撮影が始まるとものすごく慌ただしいし、外とかですと天気もどんどん変わりますから。こちらの思うように撮れることは少ないので、必ずこう撮る、ということを時間帯を決めてカメラマンと一緒に、陽の光がどう変わっていくか。陽の光は時間帯によっても変わりますから、そういうことも含めて、ここだったらこの時間帯しかないな、あるいは非常に重要な場面では、助監督さんや制作部さんにもう少し撮影の時間をこうしてくださいと伝える。撮影の順番とかもそうですけどね、ここのロケ場所はここではなくで、こちらに入れてというのを(伝えてスケジュールを)決めていきます。

松下:すごく綿密に計算していらっしゃるんですね。

石井:全部綿密に計算しないと、その場の、いわゆるアドリブ等でもできないことが多いです。ただ、ライブ感覚というか、最後の瞬間のライブ感みたいなことを私は大好きなので、綿密に計算をしているんですけども、それ以上に面白いことがここで起こるのであれば、それは取り入れますし、しかしそれが作品の狙いといいますか、撮ってるものの狙いと外れるのであれば、やめたほうがいいし。どうやって生き生きとこの映画の一瞬、一瞬を、今はデジタルのデータですけれども、どうやって命を吹き込むかということは、最初から最後、企画の段階から、脚本の段階から、そしてロケハンは非常に重要なプロセスですし、この後の編集仕上げまで、どの段階でも、どうやって命を吹き込むかということを考えない限り、命は吹き込まれない。
大きなお金を使って、そのエネルギーを使って、命を吹き込むことにたけている方もいらっしゃると思うんですけれども、お金ではない部分で命を吹き込むことは、時間と集中力と綿密な計画と計算というか、プラス、最終的には計算を超えたそれなりの勘とか、スタッフが入った時の勘とか(が必要だと考えます)。勘を出すためにも、やはり綿密な計画をたて、どうやったらその勘が出やすいかということへ持っていく。お天気も調べればわかると思うので。一年間の統計とかこの場所だと必ず2回か3回は雨が降るとか。
偶然に素晴らしい映像や場面はわたしは撮れないと思ってます。攻めに攻めて、最終的に何でも来い、という気持ちになれるかどうか。撮影シーン、全般に渡ってすべてどこも同じだと思います。その場所に行けば、見て雰囲気を感じれば、実際の大きさとか、光とか環境を見れば、音がうるさくて芝居が取れないとか、飛行機が頻繁に通るとかですね、行って確かめないと具体的にはわからないことですからね。
日進月歩、街は変わってしまうというのもあるんですね。何年か前、何日か何か月か前にロケハンしてすごく良かったところも、環境が変わる、あるいは時間帯によって、すごく静かなところだったのに、時間帯がちょっと違っただけで、すごく騒々しくて撮影がしにくいとか、ありますから。時間帯と併せてロケハンする必要があります。それは偶然には、やっぱりスタッフもキャストも来てできませんからね。

松下:わたしたちはいろいろな現場をみているんですけれども、映画の現場というのはやはり縦割りで、美術さんがいたり、照明部さんがいたり、撮影の人がいたり、それぞれプロの集団なんですけれども、監督がここまで細部までしっかりと見てらっしゃると現場の雰囲気もかなりピリッとしてそうですね。

石井:だいたい他のみなさんそうだと思いますけど。わたしは習性で、若いころは気にしなかったですけど、トイレがどこにあるかとか、大きさはどうかとか、それは清潔か不潔かとか(確認します)。女性スタッフもいますからね、わたしも汚いのを使うのは嫌なので。やっぱりそのへんはすごい大事ですね。控室はどこにあるとか。そんなことも含めてトータルなのだと思います、全て。出来上がってからもね、公開はどこでするか、映画を見るお客さんが、最終的にはその映画を完成させるというふうに思ってます。
全ての撮影にかかわること、映画公開に関わるすべてのことが、全部とても大事だということですね。

松下:石井組のみなさんは幸せですね。さて、神戸の方はやっぱり神戸のこと聞きたいというふうにたくさんの質問を持っていますので、神戸のロケについてちょっとお聞きしたいんですけれども、海と山に恵まれた神戸市ですが、撮影場所を探すときのポイントとかありますか。

石井:まずはやはり作品の狙いです。

松下:そうですね。

石井:作品のテーマ、撮影したいと思っているシーンの狙い。そして個人的なことは、いまお話ししたようにプロデュースの問題があります。例えばビジュアル的にとてもいいけど、100%ということはないと思います。幾つもの項目で優先順位が決まっていて、その組み合わせの中でベストを決めるのではないかと思うので、そういったことを総合的に考えても、神戸というところは撮りやすい場所が多いと思います。

松下:風景が多彩ということはよくいわれますね。

石井:協力的で、撮影しやすい物件が非常に多い。

松下:一番心に残ったロケ地はどこですか。

石井:まだ全然撮れたと思っていないので、特に撮れなかったところが心に残ってますね。こんないいところに見つけていただいたのに、撮れなかったいうのが、私としては心残りなので。どこだったかな、名谷の焼却場とか。あの中とかでロケハンさせていただいて、ここは撮りたい!と思ったんですけど、その作品は延期になってしまったので、ロケ地を変えざるを得なかったのです。ずっと今日、最初から言っていますけれども、あんまり人に知られてない、とても映画的に力があるというところに出会うと、すごく興奮しますね。
後でちょっとお話できますけども、新しい映画でも、名谷の駅前に広い公園といいますか、池があって。あそこは人がいない、ということもあって今回の新作で、使わせていただきました。多用させていただいております。あと、伊川谷にもすごくいいところがあるんですよ、実は。一言で言えないんですね、伊川谷って。大学も近いんですけど、ものすごく広いところでなかなかいいスポットもあるんです。

松下:それはこっそり教えてほしいですね。
ちょっと映画のお話を一つだけお伺いしますね。日本や海外にかかわらず、今特に気になる映画作家や俳優の方はいますか。

石井:やはり濱口竜介監督は気になりますね。あと、黒沢清監督。『予兆 散歩する侵略者 』という作品がとても好きで。『岸辺の旅』もすごく好きです。もちろん『スパイの妻』も面白かったし、近年の黒沢清監督はどれも刺激的ですね。海外ではオリヴィエ・アサイヤス監督や、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品にしびれます。

松下:あと1個だけ、気になっている方もいると思いますが、お名前を変えた理由はなんですか。

石井:生まれ変わりたいと思ったんですかね。常にそう思ってるんですけど、本当にダメな人間だ、と。絶望的にダメな人間だと思ってしまうときもあるので、なんとか自分を変えたいという希望が時々沸き起こってくるんですね。岳龍にしたときは、元々、前の名前があまりに間違えられることもあって、あまり気に入ってなかったんですね。

松下:ちなみに、本名ですか?

石井:本名は本名なんですけど、読み方や漢字が違います。音読みできないというか、その漢字は使っちゃだめという。本名の読みかたは「そうご」とは読まないんです。何となく自分じゃないのかなと。龍が好き、ドラゴンが好きだったこともあって、ちょうど大学を舞台にした『生きてるものはいないのか』という現場を、神戸に来て4年経ったのでできるというのもあって、その機に変えたのです。ただ、名前が変わったからと言って人間が変わったとは思えなかったですけど。最近では、自分ではなんだか岳龍という名前に少しは近づいたかな、という思いをしていますけれどもね、実感として。

松下:ありがとうございました。質問コーナーは以上で、劇場公開最新映画『自分革命映画闘争』が318日から元町映画館で公開されます。ちょっと粗筋をご紹介したいと思います。神戸芸工大映画コースの教授でありながら、自らの思想「自分革命闘争ワーク」の実践にかられ、狂的状態に陥り、突然失踪してしまう石井監督。失踪したあと、監督が残したワークテキストを実践してみる学生たちと、監督の行方を追う助教たち。フィクションとドキュメントがせめぎ合う、実験的かつ意欲的な作品。
わたしもこの間、試写会で見させていただいたんですけれども、神戸芸術工科大学で教鞭をとってこられた集大成のような、力のこもった作品ですので、私が余計なことは言わず、監督からぜひ、たっぷり今作のご紹介をしていただきたいと思います。

石井:自分で自分の作品を紹介するのは大変恥ずかしいんですけれども...。ご覧になったように、私も出ておりまして、スタッフはほぼ全員出演しています。実際に私は神戸芸術工科大学の映像表現学科教授の石井岳龍として出演しているんです。

松下:MAD教授ですよね。

石井:ほぼ全員が自分の役で出ていまして、自分の役でスタッフ全員が出てくれているんですけれど、私が、あの普段でもおかしいですけれども、もっとおかしくなってですね、フィクションとして、ちょっとクレイジーになってしまって、大学をパニックに陥れるという...、大学と言っても映画コースだけなんですけど。映画コースのみんなを道連れに、なんだかとんでもない騒動を起こすというのが大きな設定です。
わたしが突然おかしくなって失踪して、みんなに、(こういうワークをやってくれ、という、)自分の意識を変えるんだ、というワークをやってくれと残して。それをみんなやるかどうか迷うんですけど、実践していくうちに、だんだんと映画のような、そういう現実かフィクションかわからないものに飲み込まれていく。
そして二転三転フィクションと現実が転換するんですけれども。自分としては自分たちで映画を作ることのひとつの最終的な夢でしたので、それを成し遂げるために、それを世界で一番面白くするためには、この方法だという風に思いついて、やるからには自分も演技をやるんで、(みんな)やってくれと。私が率先してやるから、しかもおかしな役を、MAD教授の役をやるから。ということで、強引に巻き込んで、作り上げようとした作品ですね。

松下:最初から監督が鬼気迫る勢いで出てこられるので、そこで度肝を抜かれますよね。

石井:私が8ミリで最初につくったのは『高校大パニック』という(映画で)、大学に入ってすぐに撮ったんですけれども、それは高校生の男の子が受験戦争でおかしくなって、暴力を、数学の先生にライフルをぶっ放す、というのからはじまる映画なんですけれども。四十何年たって、今度は先生が学生に(銃を)向けて、自分にも向けるんですけど、そして画面にも向けてるということは、お客さんにもむけているんですけれども、そこから始まる映画を作ろうと。そこから進めてどこまでいけるか、というのをめいっぱいできる限りやった映画ですね。

松下:大学生の方もそうですけど、卒業生の方もたくさん出ていますね。

石井:(神戸フィルムオフィススタッフで卒業生の)前田さんにも出てもらいました。神戸フィルムオフィスとしてロケハンの担当もしながら、最終的に出演もするという。全員がそういう感じです。メインスタッフは一緒にやっている武田先生というVFXと照明と撮影と編集と全部やってくれてるんですけど、ほとんど主役もやってくれています。ほかにもサウンドデザインの先生も、勝本博士という私が20年間一緒に音響をお願いしている方で、天才的な方。あと、当時は機材室にいたのかな、卒業生の折野君が録音、美術に助手の谷本さん。彼女もすごく演技が上手で、ワトソン君のような、いつも冷静な感じな助手役で出てきます。実は素晴らしい技術を持つ学生たちと一緒に(制作しました)。それとやはり卒業生の向田君が助監督で。今度個展をされるんですよね。

松下:そうですね、北野のギャラリーで。

石井:さらに撮影もするって聞きました。

前田:このあいだロケしてましたよ。

石井:新作映画の中で出てくるイラストやイメージ画も、彼に書いていて、過去作品では私の絵コンテにも協力してもらって。『ソレダケ/that's it』という一部神戸でロケもさせてもらったんですけれども、その映画でも、染谷君がとても大事にしているマンガ本があるんです、「デストロイヤー」という。その漫画本も彼が書いてくれたんです。また絵コンテも協力してもらって。絵コンテが必要な時には彼を読んで協力してもらってきました。
彼は絵が描けるので、卒業後は漫画表現学科の助手さんもされて、最近はプロの助監督としても、『Sin Clock』もされて、チラシをもらいました。そういう非常に優秀な、在学生がメインで、あとは卒業生や在校生がスタッフです。あとはこれまでの映画にご協力いただいた方や、映画表現学科にゆかりのある先生がたにも出演していただいてます。

松下:それが身内だけの映画ということではなくて、本当に劇場公開されて見ごたえのある作品だと私も思ったんですけれども、皆さんと一緒にそういうものを作り上げられたお気持ちはいかがでしたか

石井:最初からもう劇場公開を目指すということで、お茶を濁すものではなくて、本格的な劇映画、劇場公開を目指すんだということで(考えていました)。ただ撮影の最中にコロナの災いが起こり、1年ぐらい止まってしまったんです。しかも5.1chの立体音響にするということで、2チャンネルでも大変なのに、5.1chにするにはどのくらい時間がかかるのか。そのように作ったんですけど、勝本博士と折野君指導のもと、学生たちが頑張って作業を続けてくれて、半年以上か、もっとかかりましたね。非常にびっくりするようなクオリティの立体音響になっています。音響的にも非常に多彩な、激しい音から静かな雰囲気あるサウンドデザインまでが随所にあります。映画ですから、映像が大事なんですけれども、同時に音響というのはものすごく大事。ロベール・ブレッソン監督は、「耳は眼よりも創造的だ」と、非常に音を大切にする監督で。ゴダール監督もそうなんですけれども、サイレント映画的な映像を大切にする監督たちは、同時に音に対してもものすごく鋭敏なもので。私も、この映画のテーマのひとつでもあるんですけれども、心の目をひらくということと、心の耳で聞く、それは映画館で見る、体験することのものすごく大切な要素だと思うんですね。この映画(の上映時間)を長くしてあるのは、映画館でかみしめるように体験していただきたいと思っているからです。いま配信で、わたしも見ているんですけれども、ぜひとも、映画館で映画をみることの重要性というか、得も言えぬ、私にとってかけがえのない体験というのは、ずっと大切にしていきたいと思っています。

松下:ありがとうございました。最後に、これからの神戸について、辛口な一言をお願いできますか。

石井:辛口な一言なんて、ないですよ。素敵なまちです。これからも神戸で撮影していきたいと強く思っています。

松下:うれしいですね。新作映画もぜひ劇場でたくさんの方にご覧いただきたいですね。そして、石井監督のこれから神戸で撮影する作品も楽しみにしています。本日はありがとうございました!

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